2008年8月3日のすぎやん

2008年8月3日のすぎやん


部屋に冷房を入れ、元気そうな顔で出迎えてくれたすぎやん。

暑いせいもあり、ここのところはあまり外出していない様子です。
でも、去年までは午後の暑い時間帯でも日陰で過ごしていることが多かったことを思うと、様子が変わったなぁと思います。

「足の腫れ、引いたやろ?」

最近口にする、お決まりのセリフです。

左足が腫れるようになって、ずいぶん時間が経ちました。右足まで腫れていた一時期よりは、確かに状況は改善されました。
ただ、左足の状態はまだまだです。


2年前の様子
腫れた左足


現在の様子
現在の左足の様子


「引いたとは思うんやけど、足首が割と細いから、腫れが目立つんや」
「そうや、すぎやんは足がスマートや、ってスタッフが言いよる」

そこに食いつきますか。

ところで、「昔、婚礼家具運搬作業に行き、作業終了後にお客さんと一緒になってどんちゃん騒ぎをしていた」という話を、以前からよく聞かされていました。
大型トレーラーを運転していた、という話も聞いていました。

ただ、「すぎやんは結局、何の仕事をメインに任されていたのか」ということが、私には今ひとつわかりませんでした。
で、この日いろいろ聞いてみました。

油断すると、「わしは何でもやった。婚礼なんかはベテラン社員が行かんかったら、段取りがわからんからあかんのや」などという自慢モードに陥るすぎやんから詳細を聞くのは、非常に骨が折れました。

小型から超大型まで、いろいろな車に乗ったようですが、一番多かったのが「10トン車での配送」だったらしいです。

「手が空いている時には、駅の小荷物を運んどった。(昭和20年代後半には)オート三輪で薪やら練炭やらを運んで、全身真っ黒けになったもんや」

免許取得前は、自転車で小荷物を配達していたこともあったとのこと。

「もしかして隙間から、みかんとかりんご、ちょろまかしたとか?」
「・・・たまにな。そやけど配達に行ったら、(その場で)ようもろた」

いい時代です。

「明治製菓とかに返品になるお菓子を、よう取ったわ」
「はい? どうやって?」
「どっかから明治製菓に返品になるお菓子があったんや。ちょっと割れてたりするだけやから、上等や。そやから箱あけて、会社のみんなで取ったわ。受け取る方も全然チェックしよらへんから、わからへん」

在庫管理が徹底されている現代では、まず考えられません。

一番楽しかったらしいのが、婚礼家具運搬作業。
作業終了後には、ごちそうやらお酒やらがふるまわれ、帰りにはお土産も持たされ、チップまではずんでくれるというので、希望者多数。
そのため、交代で順番が回ってきたそうです。

当然のごとく、帰り道は飲酒運転。でも捕まったことはないそうです。

「婚礼は、積み込み方が難しいんや。人に見せるように、タンスは背中合わせに積む。その合間に、布団やら長持やらをうまいこと積んで、最後に三面鏡や。紅白の布のかけ方も、コツを知ってんとでけへん。嫁入り先に荷物を運び入れる時は、最初に三面鏡を入れなあかんかった」

三面鏡が女性の象徴とされていた時代の風習です。

こういった仕事は、すぎやんが40代を迎えた頃にはなくなってしまい、その後は引っ越し作業だけになってしまったようです。

すぎやんの現役時代が、こういうおおらかな時代で本当によかったと、つくづく思います。






2008年7月27日のすぎやん

2008年7月27日のすぎやん


暑いので、かき氷とソフトクリームをコンビニで買って、すぎやんのところに向かいました。

「自然の風が、気持ちええ」

そうおっしゃいますが、風は全く吹いていません。
冷房なしのエコ仕様で過ごすのも結構ですが、普段あまり汗をかかない私が断言します。

すぎやんの部屋、暑すぎです。
第一、すぎやんも汗だくじゃないですか。

すぎやんがかき氷、私がソフトクリームを食べつつ、テレビで高校野球観戦。

「決勝戦や。大阪南部の」

PL学園対近大付属の試合で、私が見始めた時点では6対2でPLがリードしていました。

「昨日は大阪北部の決勝を見てた。優勝したんは・・・えーっと、どこやったかな」
「・・・・私、見てへんからわからへんで」
「えーっと・・・」

すぎやんは結局思い出せず、私がその学校名を知ったのは、画面に「大阪桐蔭」という文字が出てきた時でした。

「PL、強いな。そやけど全盛は、桑田と清原がおった頃やったな」とかなんとか言っているうちに、近大付属がぐんぐん追い上げてきました。

「PLは、あかんな」
「さっき強いなって言うとったやん」

時間毎に、すぎやんの評価はころころ変わります。
結局、近大付属が延長戦でサヨナラ勝ちし、甲子園への切符を手にしました。

で、先日からのスナップの件。
家でスナップを付けたポロシャツを見せて、

「これでいい?」
「おう、スナップが一番楽なんや」

了承頂いたので、残り2枚のポロシャツに、順番にスナップを縫い付けていきました。
着用中のポロシャツにも縫い付けるために脱いでもらおうとした時。

「うわ、袖口破れてるやん。気、付かへんかったわ」
「そうか? 破れてても、かまへんやんけ」
「あんたはかまわへんかもしれんけど、私がかまうわ」

着用中の山吹色のポロシャツは、すぎやんのお気に入り。
なぜわかるかというと、同時期に購入した他のポロシャツに比べて、へたりが異常に早いから。

「襟のとこも薄くなってる。もう今年でこのシャツ、終わりやな」
「そうや、使い捨てやな」
「使い捨てって・・・これもう、3年くらい着てもらってる」

でもまぁ、広義に解釈すれば、確かに使い捨て。

「今度また、ええのん買うてくれや。絵の入ったやつ」
「あのさぁ、もうじき73やで。年考えな」
「ええやんけ。外歩いてるおっさんも、派手なん着てるぞ」

欲はたんまりありますが、日時・曜日の感覚がかなりうとくなってしまったすぎやん。

「この間、私が何曜日に来たか、覚えてる?」
「土曜日や」

ちなみに正解は、金曜日。2日前です。

「土曜日って、昨日やで。昨日、私の顔見た?」
「・・・違うな、金曜日、やったかな?」

一事が万事、こんな調子です。
今の施設で暮らしはじめて、もう5年以上経過。それなのに、往診の先生が何曜日に来るとかが、未だに覚えられません。

ただ入浴曜日だけは、何とか記憶しています。
時々曜日が変わるので混乱することもあるようですが、一時期のように「24時間前から入浴準備万端」ということはなくなりました。

「すごい進歩やな」
「そうや。今では風呂のちょっと前に準備するようになった」

「ちょっと前」といっても、当日の朝ですけどね。
ちなみに入浴時間は、夕刻です。






2008年7月25日のすぎやん

2008年7月25日のすぎやん


前回のスナップ事件解決のため、夜7時過ぎにすぎやんを訪問しました。
平日の夜にすぎやんの所に行くのは、ものすごく久しぶり。

私を見て、きょとんとした顔を見せるすぎやん。
既に夕食は終わり、ズボンを脱いで晩酌を開始する直前だったようです。

予想通り、すぎやんはスナップの件をすっかり忘れていた様子。
それで、「家でスナップを付けるから、ポロシャツを取りに来た」と説明すると、ようやく思い出したようで、

「やっぱりお前がおらんとあかんな」
「いやいや、私はすぎやんのお小遣いとビールを運ぶのが仕事です」
「そんなことは、ない」

一応、否定して下さいました。

ただ持って帰ろうにも、1枚は着用中、1枚は洗濯中。
すぐにスナップを付けられるのは1枚のみでしたが、とりあえずそのポロシャツを持ち帰ることにしました。

すぎやんには、「私が来る日は、日曜日」という感覚が染みついてます。だからこの日も、「今日は日曜日やな」とずっと言っていました。
そう言った後すぐ、「今日は金曜やから、ドラえもんや」とも言います。

もう、何が何だか。

「ドラえもんの後は、しんちゃんや。ロト6も見る。おもろいぞ」

最近は、ドラマ「ロト6で3億2千万円当てた男」がお気に入りらしいのです。

大金がからむドラマには、本当に弱いすぎやん。どれだけ欲まみれか。






2008年7月20日のすぎやん

2008年7月20日のすぎやん


すぎやんはベッドに寝転び、冒険家の三浦雄一郎さんが今年5月に無事成功した、エベレスト登頂ドキュメントを見ていました。

「あんなとこに登るのにどっから金が出てるんかが、わからん」
「スポンサーがようけついてるんや。75歳でエベレストに登るっていう夢に、スポンサーがつくんや」

感動的な番組なのに、すぎやんには邪念だらけ。

「山が好きなやつ、ようけおるぞ。山がそこにあるから登るんやな」
「難しい言葉、知ってるなぁ。あの人、すぎやんより年上やで。すぎやんもまた、ぱーっと一花、咲かさな」
「わしはもうあかん。悔しいのう」

自分より年上の方が元気に飛び回るのが、うらやましくてたまらないすぎやん。
こういった傾向は以前から見え隠れしていましたが、如実に「うらやましい」という態度を出すようになったのは、ここ最近のことです。

「わしもいろいろ考えるぞ」
「だから、そんな考えすぎたらあかんって。そんなに人のことをうらやましがるなんて、すぎやんらしくないで。すぎやんは、なにくそで今まで来たやろ」
「そうや、わしは負けるん嫌いや」
「そやろ。だから、ぼちぼちやったらええやん」

ところで、夏は半袖のポロシャツをすぎやんに着てもらっています。すぎやんはそのポロシャツを、就寝時にも着用しています。いわゆる、着っぱなしというやつです。
そのうちの数枚は、前が開いているタイプで、そこにはボタンも何もついていません。

ポロシャツ

気やすさを考慮して選んだもので、着用して早や2夏経過しています。
なのにこの日突然、すぎやんは「前が開いているのが嫌だ」と言い出しました。

「朝起きた時に、シャツが肩口まで広がってしまってるんや。外に出てる時も、広がってしまうのが恥ずかしい。わしはきちんとした人間やからな」

「もっと早く言ってくれたらいいのに」と言う私に、すぎやん反論。

「この間からお前に、2回くらい言うた」
「聞いてへん」
「お前はすぐ忘れる。絶対言うた」
「そやから、スタッフに言うたんとちゃうの。私は初耳やで。そのシャツ、もう1〜2年着てもらってるけど、そんなん言うん、今日が初めてやん。開いてる方が便利かなと思って買ったんやけど、嫌なんやったらもっと早う言うたらええのに」
「お前に気を遣ってたんや」

はいはい。

スナップか何かを付けたらええかな、家にスナップはないから買いに行かなあかんな、と私がつぶやいていると、

「また来るんか」
「え?」
「(スナップを)買うて、また戻ってくるんか」
「いや、今日はもうここにおるし。買いには行かへんし」
「明日か?」
「明日かどうかは、わからへん」
「いつや」
「いつって、そんなはっきりわからへんし」
「どこで買うんや。そんなん、売ってるんか」
「売ってるやろうけど、私あんまり裁縫関係の店に行かへんし、どんなんがええか探さんと」
「お前は裁縫は、ちっともせえへんもんな」
「・・・ボタン付けくらいは、するで」
「ほんまか、そんなんできるんか?」

ああ、もう、うるさい。






2008年7月13日のすぎやん

2008年7月13日のすぎやん


先週のような鬱状態だったらどうしようかと思っていましたが、この日は先週よりも元気そうな顔をしていました。
ただ言葉がやや聞き取りにくく、それは本人も自覚しているようでした。

「舌がもつれる。うまいことしゃべられへん。最近調子悪い」
「先生に具合悪い時はちゃんと言うてる? 言わんとまた入院やで」
「ちゃんと言うてる」
「しんどい時は、スタッフに言わなあかんで」
「ここにも看護婦がおる。わしはブザーを押さん男や・・・」

何ですか、その「ブザーを押さん男」って。
(「ブザー」とは、部屋に備え付けのナースコールのこと)

「そやからたまに押したら、『すぎやん、どうした、何があったん?』って言うて、スタッフが飛んできよるわ」

ところで、以前は冗談と本気の区別ができていたことが、少しずつ区別しにくくなってきているな、と感じることが、最近よくあります。

すぎやんは以前から、私にこんなことをよく言っていました。

「わしが死んだら、そこらへんに埋めて、『すぎやん、やっと死によった』って言うて、万歳するんやろ?」

その質問をする時のすぎやんの表情は、それはそれはうれしそうでした。
私をからかって遊んでいるのがよくわかったので、私も「そやな、赤飯炊かなあかんな」という感じで応え、2人で軽口の応酬を楽しんでいました。
だけど最近は、こういうことはできなくなりました。

この日もこんなことを言い出しました。

「お前に迷惑かけるから、晩寝たら朝死んでへんかなって思うんや。そしたらお前は万歳して、そのへんに埋めるやろ」

半ば本気のような雰囲気が感じられたその口調に、「これではいかん」と思った私。ぴしゃりと言い放ちました。

「何回もそんなこと言うて。もういい加減にしなあかんで」

本気モードで怒った私を見たすぎやん、しょぼくれます。

「そやけど、わしもいろいろ考えるぞ。お前にようしてもろうてるのに、こんなこと言うたらあかんな、とは思うてるけど、つい口から出てしまうんや」
「そうやろうなとは思うてるけど、やっぱり聞いてしまったら、私もかちんとくるやん。そんなにひがまんでもええやん」
「最近、へんな夢をよう見るんや。そやからかもしれへんな」
「どんな夢?」
「ようわからんけど、へんな夢や」
「あんまり考えすぎたらあかんで。考えすぎたら、よけいにへんな夢見るし。今まで通り、思うたように生きてたらええやん。病気になったら、どうするん」
「考えすぎたら、血圧も上がるしのう」

すぎやんが何をいろいろ考えているのかはわかりません。
ただ、自分の父親がこんなにさびしがりの人間だったなんて、子供時代は思いもしなかったです。

すぎやんの季節は、確かに変わろうとしています。
歯がゆいことばかりだろうけど、何とか乗り越えてほしいと祈るばかりです。






2008年7月6日のすぎやん

2008年7月6日のすぎやん


すぎやんはベッドに寝転んで、クーラーを入れ、準備万端で私を待ってくれていたようです。
いつも大体夕方3時〜3時半くらいに施設に行きます。この日もこの時間帯に到着したのに、文句を言われました。

「遅いから何かあったんかと思ってた」
「いつもこれくらいの時間やん」
「いつも1時半くらいやろ」
「その時間には、だいぶ前から来たことないで」
「そうか、2時半やな」
「だから〜」

そんなことを言っていると、スタッフが短冊とペンを持って来られました。
翌日は七夕。談話室兼食堂に飾ってある笹の葉に吊すんだそうで、何か書いて下さいとのこと。

「何を書こうか」
「もっと飲ましてくれ、って書いとけ」
「毎晩飲んでるやん」
「もっと飲ませろ、って書いとけ」
「いや、ちょっと、それは」
「そんなん、どうでもええやんけ。書かんとけ」

それでもしつこくペンを片手に悩んでいる私を見たすぎやん。

「気が短いのが直りますように、って書いとけや」
「それ、ええなぁ」
「あほ、書くな、そんなこと。またスタッフに笑われるやんけ」
「ええやん、大阪人やねんから受けを狙わな」

で、それをそのまま書いて、スタッフに渡しておきました。

ところでこの日のすぎやんは、完全に鬱状態。「どうせ、わしなんて」とひがみっぱなし。
私が何を言っても、笑顔を見せません。

ここのやつと顔を合わせるのが嫌や。
わしが行くとこ行くとこ、(一部の入所者さんが)ついて来よる。
みんなちゃっちゃと歩いて、どこにでも行きよる。そんなやつがなんで施設におるんや。そんなやつらは家に帰ったらええんじゃ。

介護保険を利用した施設だから、要介護認定がおりた人は誰でも入れる、という正論は、すぎやんには通じません。
そこで、ここは病院ではない、さっさと歩けても病気がちの人もおると言っても、

「そしたらそんなやつは、入院したらええんじゃ」

すぎやんのいらだちの原因のひとつは、徐々に体力が落ちてきていて、今までは比較的楽に出来ていたことが、だんだんと出来ずらくなってきているためではないかと、私は思います。
中には、自転車に乗る方もおられるようなので、余計につらいのでしょう。

すぎやん的には、「家で私と暮らせばこの状況を打破できる」と考えています。

「家に帰ったら、部屋の中でじっとしてテレビ見とく。こんな情けない格好で、出られるかい。お前の言うことは、何でも『はいはい』て聞く」

大嘘です。

すぎやんが家にじっとしている訳がありません。絶対にどこかへ出かけ、マンションの住人の誰かと諍いを起こすに決まってます。

それに、今までいろいろな病院や施設に行きましたが、1度として文句を言わなかったことはありません。
どこへ行っても、必ず誰かとけんかしてます。
好き嫌いが激しくて、勝手に仮想敵国を作り、結局自分で自分の首を絞めています。
私にも、言いたい放題です。

すぎやんが自分に正直に生きる姿勢は、私は嫌いじゃありません。
でも、すぎやんが今の娑婆で生きるのは、とてつもなく難しいことだと思います。

私が帰る準備を始めると、ますますしょぼくれます。「もっとゆっくりせえや」と引き留めます。

「帰ったって、どうせ飯食って寝るだけなんやろ。暇なんやろ」
「・・・」
「もっとおれや」

だけど、すぎやんの言うことを聞き届けていると、きりがありません。
いつかは私も帰らなければなりません。

「ごめんな、きりがないし。また来るわ」
「ほんまに帰るんか」
「なぁ、元気出して行こうや。そんな『わしのことなんて、よけもんや』とか言うたらあかん。誰もそんなこと、絶対思ってないで」
「わし、もう何も言わんと、部屋でじっとしてるわ」

時々こんな鬱状態があるのですが、この日はかなりきつかったです。
さすがの私もしんどかったです。






2008年6月29日のすぎやん

2008年6月29日のすぎやん


施設側と利用者側が一堂に会して意見交換する、運営懇談会の開催日です。
この日は、利用者さんの家族さんが30人近くお集まりだったでしょうか。

施設長さんからの重要事項の説明、6月から着任された新マネージャーさんの挨拶、新しく協力医療機関として加わる予定の病院の事務長さんからの挨拶などの後、テーブルミーティング。

私を含めて6人の方が同じテーブルに集い、施設側からは新マネージャーがテーブル担当として着席されました。
ご一緒した皆さんは、この日初めてお会いする方ばかりでした。

急に様態が悪くなった時にどのような対応をしてくれるのかと質問される方、なかなか嚥下ができない人への対応について相談される方、施設の備品を自分の物と言い張ったり、同じフロアの入居者さんとうまくいかず、やや被害妄想に陥っているので困っているとおっしゃる方。

それぞれの方たちが、いろいろな悩みを抱えておられるのだなぁと思いつつ、聞き入る私。

私はといえば、「いつもお騒がせしてすみません」と、とりあえず頭をぺこり。
「そんなことはないですよ。いつもよくお話しして下さって、とても楽しいです」とおっしゃって下さるマネージャーさんに、こうお願いしておきました。

フットバスの機械がずっと調子が悪いままなので、すぎやんは自分が放置されていると疑心暗鬼に陥っている。あげく、「どうせわしなんか」とすぐひがんでしまうようになっている。

私としても、あまりに機械の調子が悪いままだと、これを家族側で用意しなければならないのかと、不安になる。

最近非常に寂しがりになり、ちょっとしたことですぐ落ち込んでしまう。
どこにいても不満は出てくるし、ストレスを完全に解消することは無理だけれど、取り除くことができるストレスは、なるべく取り除いてやってほしい。
機械がいつ直るのかとか、何らかの方針を示してやってほしい。

また、毎月送付頂くケアプランだが、変更がなくても送付されてくるので、変更の有無がわかりにくい。ひとことでよいので、プランの変更有無をどこかに書き添えてほしい。


私の発言をメモしていたマネージャーさんは、「了解しました」とおっしゃいました。

運営懇談会は1時間半ほどで終了。すぎやんの所に戻りました。

「『すぎやんはうるさいから追い出せ』って言うとったんやろ」
「そんなこと、言うてへん」
「わしの悪口ばっかり言うとったんやろ」
「あのな、ぎょうさんいたはるんやから、すぎやんのことばっかりしゃべってへん。みんなそれぞれ、言いたいことやら伝えたいことがあるんやから。すぎやんだけの会議とちゃう」
「何を言う。ここはわしで回ってるんや」

はいはい。

「ぐるナイ」の再放送を見ていたすぎやん。
画面に映る肉がうまそうやとか、あいつらはええもんばっかり食うてるとか言います。

「わしは最近、ちっとも外食してへん」

つい2週間ほど前、家でにぎり寿司を完食したこと、すっかり忘れてます。

「最近、お寿司食べたん、いつか覚えてる?」
「最近は、『新鮮や』に全然行ってへん」

「新鮮や」とは、回転寿司のお店。全品100円ではなく、ネタによって値段が変わります。
お寿司を外食する際に、この施設がいつも利用している店です。

「いや、別に『新鮮や』だけじゃなくって、握り寿司を今月に入って、食べた?」
「食ってへん」
「ふーん。食べてへんのや」
「食べたような気もするなぁ」
「で、最近食べた?」
「食ってへん」

きっぱり言い切られてしまった。

あんなにおいしそうに食べてたのにな。
「10年生き延びた」って言ってくれてたのにな。

「お寿司食べに行っても、どうせすぎやんは、『まぐろ・まぐろ・まぐろ』やもんな」
「おう」
「まぐろ時々いか、所により鯛。はまちとかもあかんのやろ」
「わし、はまち嫌いや」

たまごは嫌い、サーモンは嫌い、たこはかまれへん、文句ばっかりです。
後で回ってくる請求書を見ると、300円とか500円皿ばっかりです。

だからスタッフに「すぎやんはほんまに、贅沢や」と言われているらしいですわ。






2008年6月22日のすぎやん

2008年6月22日のすぎやん


1日雨。久しぶりに徒歩で施設に向かいました。

キッチン周りで、スタッフと入所者Aさんの娘さんのBさんが、体重計を囲んでわいわい騒いでおられます。

「いやぁ、体重がものすごう増えてる。ショックやわ」

Bさん、絶叫。

そこへ、すぎやんの発泡酒を抱えてキッチンに入った私を見たBさん、私に

「乗ったら?」
「いやぁ、最近太ったから、ちょっと・・・」

そこで、すぎやんのビール7本を載せてみました。なんと、4キロ弱。

「いやぁ、結構重たいもんなんやね」
「今日雨やから、歩いて持って来たんです」
「うわぁ、大変やねぇ」

そんな会話をBさんと交わしました。

すぎやんは、テレビで「相棒」の再放送を見てました。
「最近ようやってるから、見てる」とのことなのですが、実は水谷豊さんより、わかりやすくて熱血漢の寺脇康文さんの方が、すぎやん好み。
テレビを見ながら、ああだこうだとしゃべっていたら、フットバスを持った男性スタッフが登場。

しかしフットバスからは、音はすれども泡が出ず。
すぎやんの怒りの火砕流発生。

「前から(この機械は)あかんのや。これをやってるから、足の腫れがちょっとは引いてるんや。これがあるから、ここにおるんや。腫れが引かんかったら、装具も履かれへん。歩かれへん。腫れが引いて歩けたらこんなとこにおらへん。すぐに家に帰るんや。来るやつ来るやつに、『機械を直せって言うとけ』って言うてるのに、ちっとも直しよらへん。『すぎやんがまた怒ってる。怒らせとけ、ほっとけ』って言うてんのやろ」

挙げ句の果てには、怒りの矛先は内科の主治医の先生にまで及び、「あの先生はあかん。何もしてくれへん」とまで言い出す始末です。

すぎやんの怒りをぶつけられた、運の悪いスタッフは、相槌を打ち、腰を据えてすぎやんの話を聞いてくれました。

「すぎやん、替わりの機械を持ってきましょうか?」
「今日はもうええわ。お前が手間かかるやろ」

施設側も、予算の都合とかでなかなか修理や新規購入が難しいのでしょう。
でもそんなことを言ったところで、納得するすぎやんではありません。

「予算、予算って言いやがって。こんなとこ、わしでも回せる(経営できる)わい」

やれるもんなら、やってみなはれ。3日ともちませんわ。

だけど、フットバスの泡が出ないという話を初めて聞いてから、もうずいぶん時間が経ちます。
ただでさえものすごく神経質なすぎやん。施設側からの何の説明もないままこんな状態が続くと、見捨てられたような気持ちになる、というのもわかります。

次週は、施設側と入所者とその家族が一同に集う、運営懇談会が開催されます。その時に、一度確認してみようと思いました。

もう死ぬ、もう長くないとしょっちゅう口にして、いつも先走り、いつもあせっているすぎやんですが、こんなことを言ってくれました。

「こうやっておれるのも、お前のおかげやな」
「そんなことない。自分ががんばってるからやん。ひとりでおしっこして、自分で便器に移動して便ができるって、すごいで。死ぬまでそれでいかな」
「そや、死んだらしまいや。灰になるだけや。生きてるから、元気でおれてるんや」
「そやで、生きてこそやで」
「そやな、生きてこそやな。あいつは、はよう死によって」

すぎやんは、母の写真を見ながらそうつぶやいていました。






2008年6月15日のすぎやん

2008年6月15日のすぎやん


この日は、父の日。
久々に家で「お寿司ランチ」をしようと、午前中に迎えに行きました。

駐車場でまったりとひなたぼっこをしていたすぎやん、私の顔を見てちょっとびっくりした様子。
「親父が悪いことしてへんかと思うて、監視しに来たんか」とか何とか言ってましたが、「お昼、家で食べへん?」と誘うと、「行くぞ!」と即答。

荷物を置きに一旦部屋に入り、食堂の方にお昼ご飯をパスしますと伝えて外に出ると、私のバイクの前かごにゴミが放り込んであります。

「誰、こんなん入れたん?」
「わしや」
「何やて!」
「かまへんやんけ」

そのうえ、会う人会う人に、「お世話になりました。わし、退所します。長いことお世話になりました」と言い放ちます。
冗談とはわかっているのですが、超むかつきました。

むかつきながらも、なんだかんだとべらべらしゃべりながら、家に向かいました。

駅ビル内のエレベータを使って、私鉄の線路を越えると、「こんなん、1人では来られへん」。
駅のロータリーに植わっている植栽を見て、「甲子園球場みたいやな」。
マンションのエレベーターが、「速いのう」。
ネームプレートを見て、「もっとちゃんとした表札こさえろ」。

これらは2ヶ月前に帰宅した際のセリフと、全く同じです。
今後何回このセリフを聞くことになるんだろう。

11時半頃から夕方3時過ぎくらいまで、出前のお寿司を食べ、お吸い物を飲み、食後のコーヒーを飲みながら、テレビも見ず、とにかく私たちはずっとしゃべり続けていました。

マグロ一色のにぎり寿司を完食したすぎやん、「10年生き延びた」とおっしゃってました。

で、2週間くらい前にリハビリの先生から頂いたビールの残り、2缶
翌週には冷蔵庫から消えていたので、結局どうしたのかと聞いてみました。
そんな大昔の話、すっかり忘れているすぎやん。何だかいろいろ言ってましたが、

「ちょっとだけ飲んだけど、やっぱり口に合わへんから、ほとんど流して捨ててしもうた」
「ふーん」
「その缶、窓あけて、外にほった(捨てた)」
「え? なんで外にほるん(捨てるの)? そんなことしたらあかんやん」
「掃除のおばちゃんとか、食堂のおばちゃんに言われる。こんなん捨てたん、すぎやんやろって」

私の開いた口は、ふさがりません。
でもすぎやんの口は、止まりません。話題はあちこちに飛びます。

「若いやつ、最近入れ墨しとんな」
「ああ、あれ、描いてるんやで」
「え、ほんまか?」
「彫ってる子もおるけど、描いてる子も多いんやで。テレビに出てる若い歌手とかが、最近ようやってるから。はやりや」
「はやりか。わし、また、彫ってるんかと思うとった。やくざには見えへんし、おかしいなと思うとってん」
「昔みたいに、背中に桜吹雪とか、本格的な入れ墨する人はさすがに少ないけどな」
「あれ(入れ墨)をやったら、昔は怖いやくざやと思うて、近寄らんかったもんや」

足浴(フットバス)の時間は、大体午後4時過ぎから。それに間に合うように帰ろうと誘うとすぎやんは、「天国から地獄やな」と繰り返していました。

「そんな風に、言わんといて」
「そやけど毎晩、ほんまにうるさいぞ」

施設に戻ってからは、「家までの道順の復習」が始まりました。だけど途中から記憶があやふやになり、なかなか正解が出ません。
結局この日は、トータル5時間以上はしゃべり続けました。ふう。






2008年6月8日のすぎやん

2008年6月8日のすぎやん


部屋に入ると、すぎやんはベッドでうたたね中。しばらくすると、目を覚ましました。

午前中、天気の良い日は散歩に出ているようです。

施設の近所にあるお掃除屋さんに勤務している女性たちと挨拶を交わし、車で仕事に出発する彼女たちを見送っている。

近所には小さい公園が2箇所あるのだが、施設に近い方の公園はうっとうしい奴がいるから、最近はちょっと離れた保育園前の公園に行く。
だけど、そこまでの最短距離の途中にあるマンションの管理人がじろじろ見よるから、遠回りしていく。

保育園の園庭で遊んでいる子供たちも、すぎやんの顔をすっかり覚え、「じいちゃ〜ん」と一斉に声を掛けてくれる。

「最近は、男の保母さんっていうのがおるやろ」
「今は、保育士さんって言うんやで」
「そこの保育所にもおって、ようしゃべってる」

こんな話を矢継ぎ早に聞かせてくれました。
相変わらず「仮想敵国」は多いのですが、ご近所との外交活動は活発です。

往診に来て下さる先生方とも、ずいぶん親しくできるようになりました。
この事件が原因なのか、以前はほとんど言葉を交わすことがなかった整形外科のT先生とも、会話するようになったとのことで、

「愛想の悪い先生やったけど、ようしゃべるようになったし、ようしてくれはる。『手が痛い』って言うてたら、肩に注射してくれはるようになった。それで、ちょっとは痛みが楽になったわ」

今年になってから診て下さっているリハビリのH先生とは、もうすっかり仲良し。マッサージしてもらいながら、ずっとしゃべっている様子。

「あいつ最近、うきうきや」
「何、それ」
「彼女ができたらしいわ。よう家に来てくれて、一緒にワインを飲んでるって言うとった」
「ワインって、おしゃれやなぁ」
「『ちゃんと帽子かぶせてせなあかんぞ。結婚まで子供こさえたらあかんぞ』って言うといた」
「帽子って・・・そんなことまで言うてんの?」
「おう」

それでも、自由に体が動かないのがものすごく歯がゆいすぎやん。
私が近くに越してきたこともあって、その思いがよけいに強くなってしまったようです。

「わし、死んでもええから、足がほしい」
「死んでしもうたら、足があっても歩かれへんやん」
「そやな」

で、突然、「ちゃんと健康診断受けなあかんぞ、乳腺とかの」と言い出して、私をびっくりさせます。
母方はガンで亡くなっている人が非常に多く、母も乳ガンで亡くなっています。

「大丈夫。毎年受けてるから」
「あいつ(母のこと)もちゃんと検診を受けとったら、今頃まだ生きてるやろ」

こうして、すぎやんは亡くなった人たちに思いをはせます。






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